「当たり前」を変える大学業務のデジタル化への挑戦!
職員主導で施設予約アプリを開発し業務改善の波を起こす
秋田県立大学

業種: 教育・学習支援業
対象部署: -
対象業務: 施設予約
キャンパス内に存在するアナログ業務のデジタル化を目指す
地方大学は今、さまざまな課題に直面している。例えば、入学者の確保もその一つだ。全国的に地方から東京への若年層の人材流出が著しく、総務省統計局によると20代の流出者数は85.3%に達しているという。その他にも、教員・職員の人材不足や公立大学への予算減少といった問題も抱えている。
秋田県立大学は秋田市や由利本荘市などに4キャンパスを展開しており、2024年5月現在で、学生数1,854名(うち大学院生199名)、教員数190名、職員数247名を有す地方大学だ。「21世紀を担う次代の人材育成」を基本理念として掲げ、優秀な人材を社会に輩出することで地域企業への貢献を目指している。

現・高田短期大学
元・秋田県立大学
システム科学技術学部
情報工学科 准教授
廣田 千明氏
そのような秋田県立大学では、職員の業務や学生生活のなかでも先端技術を活用できないか検討しており、その一環としてアナログ業務のデジタル化に着手することになった。今回着目したのは紙ベースで行われていた施設予約であり、例えば、予約の申請書は紙で事務局に提出しなければならず、施設の空き状況も事務局でしか確認できないなど非効率な運用になっていた。
そこで秋田県立大学では、現場の職員・学生が自ら、身近にある非効率に気づき、ITで解決できる手段としてノーコード開発サービス「CELF」を導入し、キャンパス内の課題解決に取り組んだ。
なお、導入を支援したのはSCSKニアショアシステムズ株式会社だ。同社は、地方の人材流出を防ぐために現地での採用や技術者育成を通じた地域創生への貢献を目指しており、取り組みの1つとして、秋田県立大学を含む各大学との交流を深めており、現場の職員たちのリスキリングを実践し、地域における人材流出およびIT人材不足解消の一助になることを目指している。
職員主導でプロジェクトが始動し、施設予約アプリをわずか1日で開発

秋田県立大学
本荘キャンパス
アドミッションチーム
アソシエイトリーダー
小野 弘貴氏
CELF導入のきっかけは、同大学システム科学技術学部 情報工学科で教鞭をとっていた廣田千明准教授による推薦だ。当初は特別講義として、CELFを用いたシステム開発の授業をSCSKニアショアシステムズにて実施。2022年に正課授業「秋田の情報産業」の中でCELFを使ったシステム開発の授業を展開し、現在まで継続している。
このような教育面での活用と並行して、業務改善への取り組みも始まった。職員の小野弘貴氏が役員会にて「業務改善プロジェクト」の発足の承認を受け、10名以上の有志による課題の洗い出しがスタート。廣田准教授からSCSKニアショアシステムズとSCSKにも支援の依頼があり、数回の打ち合わせを経て進め方を決めた。

秋田県立大学
大潟キャンパス
総務・学生チーム
シニアスタッフ
糸屋 陽一朗氏
2024年7月には「デジタルを武器に大学内業務を変革」というテーマで、「業務改善プロジェクト」に取り組む職員向けの講義を実施。実施内容は次の通りだ。
■実施内容
- ・デジタル化の価値と成功事例・失敗事例
- ・具体的なデジタル化の進め方/最低限必要なスキルとは?
- ・デジタルが解決できる身近の非効率・データ利活用および事例(デモ)
- ・最新の技術動向(生成AI等)紹介 …etc.
さらに同年12月には実践的な取り組みとして、メンター育成のため職員3名を中心としたCELFのハンズオントレーニングを実施。SCSKグループによる開発支援を受けながら、「Google FormsとCELFを活用した施設予約の申請、承認、スケジュール登録アプリ」をわずか1日で開発・完成させることができた。
このアプリは、学生と職員双方の課題を解決するものだ。学生側は「施設予約の空き状況が分からない」「申請書を印刷・記入しないと申請できない」という課題を、職員側は「紙での承認・保管に手間がかかる」「予約空き状況を探す時間がかかる」「キャンパスごとに管理の違いがある」「グループウェアを有効活用できていない」という課題を解決できる。
アプリ開発を足がかりに他の業務への横展開も
今回のCELF導入を経て、2人のメンターは今後の展望を次のように語る。
「ITツールは必須になってくるので、ITが苦手だからということではなく、昔そろばんから電卓、ワープロからパソコンに切り替わったようにITツールの活用も普通になってきます。この取り組みをきっかけに意識を変えていきたいです」(小野氏)
糸屋陽一朗氏は「業務に携わる中で、淡々と事務的に同じことを同じやり方で続ける雰囲気を感じてきました。百聞は一見にしかずで、今回のアプリを学内に展開していき、実際に便利さを体験してもらうことがポイントだと思っています」と述べた。
今回、施設予約アプリを選んだ理由は、スモールスタートでき、他の業務への流用や既存資産(グループウェア)の活用も狙えるためだ。これを足がかりに求人情報の参照、寮内の自転車管理、食事予約申請、忘れ物管理・検索、請求書管理など、さまざまな業務改善の可能性が見えてきている。
例えば、求人情報の参照について「企業から受け取った求人情報を紙で管理し、学生が大学まで来て直接見る必要がある」「一覧を作っているキャンパスもあるが、手作業で長時間を要する」という課題に対し、CELFの生成AI機能を活用して一覧リストとPDFリンクを一気に作成し、大学のポータルサイトから参照できる仕組みへと改善する方法も考えられる。
また、職員たちは実際にCELFを使った開発を体験することで、自らの業務を客観的に見直すきっかけにもなっている。
「基礎知識がないと展開が進みません。Excelは毎日使いますが習ったことがなく、意外と知らないことも多いです」という糸屋氏の気づきは、日常業務での学びの重要性も示している。

学生の教育用ツールとしても有望。学内アプリコンテストにも意欲
CELF導入のもうひとつの気づきとして、教育面での活用可能性が広がったことが挙げられる。
廣田准教授は「これまで培ってきたCELFの知見を生かし、今後は、優秀なホワイトカラーを育てようとしています。四年制大学ではExcelやCELFは卒業論文のメインのテーマとはなりにくいです。一方で短大や専門学校では職業訓練にウエイトが置かれているため、CELFをどう活用するとよいのか卒業論文で研究されるケースはあるのではないでしょうか」と話し、続けて「CELFを使いこなせる人材は社会に出たときも最先端の働き方ができる人材として重宝されるのではないでしょうか」とも述べた。
また、「研究のためにパソコンで単純作業を繰り返す必要があるときにはCELFは役立ちますから、四年制大学の学生もCELFを学習する価値はあると思います」と評価した。
小野氏は今後の展望として「学生向け学内改善のアプリコンテストをやりたい」と述べており、職員だけでなく学生も巻き込んだ形での横展開を模索している。
このようにCELFの導入は単なる業務改善にとどまらず、学生の教育用ツールとしても有効活用できることがうかがえる。まさに「ITの専門家でなくても開発できるCELFを普及させデジタル化を促進させることで、人材不足の加速する地域経済の活性化に貢献したい」というSCSKグループの思いを実現する一歩となった。今後、卒業生による地域企業への貢献や、大学の垣根を越えたCELFコミュニティ形成、PBL(課題解決型学習)への参加や大学内でのIT活用による課題解決への協力など、他の学校や自治体へと活動の幅を広げることで、地方創生の促進を視野に入れた展開が期待される。
最後に小野氏は、「今回の取り組みを通じて、さらなるデジタル化の推進、大学外への発信と共感できる仲間・つながりの拡大、開発した資産(アプリ)の共有による業務改善の加速化、というビジョンが明確になりました。さらに、県内のみならず他県の大学にもCELFを横展開することで、よりデジタル化による業務革新が進むことでしょう。また、コミュニティによって情報共有が盛んに行われることで、CELF活用において新たな“気づき”が得られるかもしれません。CELFを使ったデジタル化による大学業務の革新や地域活性化を推進したい—。同じ思いを抱いている人は小野までお声がけください。ぜひいっしょにチャレンジしていきましょう」と意気込んだ。
企業情報
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システム科学技術学部、生物資源科学部の2つの学部からなる公立大学。「質の高い教育」、「学生の充実したキャンパスライフの提供」により、「学生の成長(次世代の人材育成)」を実現して、社会へ排出することで地域企業へ貢献すること、先端的な科学の研究及び技術の開発を行うことにより、地域産業の高度化を通じた秋田県内の産業振興に寄与するとともに、県民に対して生涯にわたる高度な教育機会を提供することにより、秋田県の持続的発展に貢献することを目指している。